医薬品の承認審査制度:#3 新型コロナワクチンの海外における承認審査制度概要(US)

こんにちは、パースペクティブの多田です。

前回の記事の中で、ファイザー社の新型コロナワクチンに対し、USのFDAでは「ファスト・トラック」という審査制度により、2020年12月11日に「緊急使用許可(EUA)」が発行されたということを記載しました。

それでは、FDAの「ファスト・トラック」「EUA」というのは、どういうものなのでしょうか。


ファスト・トラックとは

ファスト・トラックは、FDAにおける迅速承認審査制度の一つです。

重篤、または生命を脅かす恐れのある疾患を治療し、アンメットメディカルニーズを満たす(1*)医薬品の開発を促進し、治療効果が期待される新薬を優先的に審査する制度です。迅速開発・迅速審査のための活動として、FDAと協議する機会をより多く与えられたり、ローリング・レビューと呼ばれる申請前の臨床試験の段階から逐次審査を行う形がとられます。

ファスト・トラックの指定を受けるためには、製薬会社からの申請が必要です。申請は、医薬品の開発過程のいつでも行うことができ、FDAは申請を受けてから、60日以内にファスト・トラックとして指定するかを決定します。(参考:Fast Track(FDA)

ファイザー社は新型コロナワクチンの開発段階でFDAに対してファスト・トラックの申請を行い、2020年7月13日には、当局によりファスト・トラック対象に指定されたことが明らかにされています。(参考:記事

(1*)アンメットメディカルニーズを満たす、というのは、既存の治療法がない場合に治療法を提供すること、または既存の治療法よりも優れた治療法を提供すること、とされています。


緊急使用許可(EUA:Emergency Use Authorization)とは

EUAは、連邦食品医薬品化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act:FD&C Act)の第564条に基づき、未承認薬などの使用や、既承認薬の適用拡大を緊急時に許可する制度です。

具体的には、HHS長官(*2)がEUAが正当化される緊急事態にあることを宣言し、FDAが、①生命を脅かす疾患である、②当該製品に関して、疾患の治療などで一定の有効性が認められる、③当該製品を使用した際のメリットが、製品の潜在的なリスクを上回ると判断できる、④当該製品以外に、疾患を診断、予防、または治療するための適当な代替品が無い──という条件を満たすと判断した場合に発行できるとされています。(参考:Emergency Use Authorization(FDA)記事

EUAは製薬企業からの申請に基づき、FDAが判断します。ファイザー社の新型コロナワクチンに関しては、2020年11月20日にEUA申請され、2020年12月11日に許可されました。

EUAは正式な承認ではなく、一時的な許可であり、1)HHS長官が、緊急使用の必要性がなくなったと判断した場合、2)当該製品の用途が正式に承認された場合──のいずれかの早い時点で無効となります。

ファイザー社の新型コロナワクチンの16歳以上への接種については、2021年5月7日に正式に承認申請が行われ、2021年8月23日に正式に承認されました。(参考:記事

この承認により、上記 2) の条件に該当し、当該用途のEUAは無効となっています。

(*2)アメリカ合衆国保健福祉長官(United States Secretary of Health and Human Services)は、保健行政を管掌するアメリカ合衆国保健福祉省の長のことです。


次回はEUの新型コロナワクチン承認審査制度の概要について、見ていきます。


補足1)EUAガイダンス

2017年1月にFDAより「Emergency Use Authorization of Medical Products and Related Authorities」という、産業界およびその他のステークホルダー向けのガイダンスが出されています。EUA申請時には、製品の安全性と有効性、リスク(有害事象含む)とベネフィット、既承認の代替製品に関する利用可能な科学的証拠を十分に整理してまとめることが推奨されていますが、必要なデータの種類や量は、緊急事態の状況や、対象となる製品によって異なる、と書かれています(*3)。

(*3)p.11に「FDA recommends that a request for an EUA include a well-organized summary of the available scientific evidence regarding the product's safety and effectiveness, risks (including an adverse event profile) and benefits, and any available, approved alternatives to the product. The exact type and amount of data needed to support an EUA may vary depending on the nature of the declared emergency or threat of emergency and the nature of the candidate product.」と記載されています。


補足2)新型コロナワクチンのEUAガイダンス

Emergency Use Authorization for Vaccines to Prevent COVID-19」(現時点での最新版は2021年5月25日発行)として、産業界向けのガイダンスが出されています。この中で、新型コロナワクチンのEUA申請時に必要なデータや情報に関する推奨事項が書かれており、例えば、安全性有効性に関する情報として、臨床試験のPhase 3における接種後観察期間の中央値が2ヶ月間であることが1つの要件とされています(*4)。(正式承認の場合は、接種後観察期間の中央値が6ヶ月間になります。)(参考:Emergency Use Authorization for Vaccines Explained(FDA)記事

(*4) p.11に「Data from Phase 3 studies should include a median follow-up duration of at least two months after completion of the full vaccination regimen to help provide adequate information to assess a vaccine’s benefit-risk profile, including:」と記載されています。

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