DI:#4 データインテグリティを遵守しないと
こんにちは、パースペクティブの德原です。
前回、前々回と査察でデータインテグリティに関する不備が多数見つかっていることを見てきました。今回はデータインテグリティを遵守しない、あるいはデータインテグリティの対応を怠ったままにしておくとどういうことに繋がってしまうのか、書いてみたいと思います。
1. 患者の命が危険にさらされてしまう
データインテグリティを遵守しないと、場合によっては患者の命を危険にさらすことになってしまいます。例えば、下記の二つのケースを挙げます。後者は私が実際に聞いたお話です。
- データインテグリティの欠如によって、品質の損なわれた薬が出荷されてしまうケース
⇒製造現場の作業者が責任者からの指図とは異なる作業をしたが、このとき作業者本人は指図に従って正しく作業をしていると思い込んでおり、悪意の意図はなかった。そして作業記録を 事実とは異なる記録(=思い込んだ内容での記録) で残してしまったため、記録の正確性が欠如してしまった。この製造記録のレビューで間違いに気付くことができず、さらに下流の工程で異常は出なかった。品質試験では、いつもと異なる結果が出ていたにも関わらず、異常ではなく、試験のバラツキとして試験責任者が認識し、合格となってしまい、製造された薬が出荷されてしまった。結果として、品質が損なわれていたこの薬を服用した患者が健康被害を受けてしまう。注)最近のニュース(成分誤混入)の事例とは異なります。
- その薬の有効性・安全性自体に問題がなくても、データインテグリティが遵守できていなかったがために、患者が不利益を被るケース
⇒製造記録を改ざんし、データインテグリティを遵守していなかった結果、国からある薬の出荷停止が命じられた。しかしながらその薬が、ある患者にとって一番効果のある薬であったために、代替の薬では十分な効果が出ず、患者やその家族が非常に辛い思いをされた。
もし、自分の家族や大切な人が上記のような被害にあったら、あなたはどう思うでしょうか?
2. 企業の事業継続に重大な影響を及ぼす
データインテグリティへの対応を甚だしく怠った結果、企業は以下のような事態に見舞われる可能性があります。
- 製品の出荷停止
- 製品の回収、賠償にかかる費用の発生
- 業務停止命令、承取消、許可・登録取消などの行政処分
- 社会的信用の失墜、株価の下落
- 自社製品のシェアの縮小
企業が社会的信用を失うときはあっという間ですが、一度失った信用・信頼を取り戻すのは容易ではありません。これは人に裏切られた後、その人を再び信頼できるかという問いと似ています。遵守できていなかったデータインテグリティの仕組みが是正されたからと言って、信頼もすぐに元に戻るわけではないのです。
そして企業の社会的信用が大きく失墜した際には、その不備や事象に直接関わりがなかったとしても、従業員が辛い思いをしてしまうことがあります。例えば、薬を使用していただいている医師や薬剤師から非常に手厳しいご意見を頂く、通常業務に加えて短期間に大量で広範囲の調査をいくつもしなければならなくなる、新薬の開発が白紙になってしまう、というような経験をすることになってしまうかもしれません。
以上、今回は少し重たい話になってしまいました。しかしながら、データインテグリティを遵守することは経営陣、従業員の皆さんが意識して行動するところから始まります。まずはひとりひとりが「自分事」としてとらえ、日々の業務に取り組んでもらえると幸いです。
次回からデータインテグリティに関する用語の説明に入っていきたいと思います。
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