医薬品の承認審査制度:#1 新型コロナワクチンの特例承認
こんにちは、パースペクティブの多田です。
今回はeCTDの連載を一旦お休みして、新たなテーマ「医薬品の承認審査制度」の第一回として、新型コロナワクチンの特例承認について、書いていきたいと思います。
日本における新型コロナワクチンの承認状況
日本においては、ファイザー社の新型コロナワクチン「コミナティ筋注」の製造販売承認申請が2020年12月18日に行われ、2021年2月14日に製造販売が特例承認されました。申請から承認まで、約2か月(58日)というスピードです。
通常、新医薬品の承認審査には1年ほどかかります(※1)。優先的に審査が行われるよう指定された医薬品でも、半年程度はかかる(※2)ことを考えると、2ヶ月という審査期間はかなり短いことがわかります。
その後、アストラゼネカ社の「バキスゼブリア筋注」は2021年2月5日に申請され、2021年5月21日に特例承認されました(申請から承認まで、3ヶ月半強(105日))。また、武田薬品工業株式会社の「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」は、2021年3月5日に申請され、同じく2021年5月21日に特例承認されています(申請から承認まで、2か月半強(77日))。
特例承認とは
特例承認については、薬機法第14条の3第1項で定められています。((*1)~(*3)は補足のために筆者記載)
第14条の3 第14条の承認の申請者(*1)が製造販売をしようとする物が、次の各号のいずれにも該当する医薬品として政令で定めるもの(*2)である場合には、厚生労働大臣は、同条第2項、第6項、第7項及び第9項の規定(*3)にかかわらず、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、その品目に係る同条の承認を与えることができる。
1 国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品であり、かつ、当該医薬品の使用以外に適当な方法がないこと。
2 その用途に関し、外国(医薬品の品質、有効性及び安全性を確保する上で我が国と同等の水準にあると認められる医薬品の製造販売の承認の制度又はこれに相当する制度を有している国として政令で定めるものに限る。)において、販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列することが認められている医薬品であること。
(*1)医薬品の製造販売承認の申請者のことです。
(*2)特例承認は、薬機法第14条の3第1項第1号、第2号に該当するものであれば、どんな医薬品でも対象になるという訳ではなく、「薬機法第14条の3第1項の医薬品等を定める政令」等の関連する政令で、第2号の「外国」に該当する国や具体的な品目が規定されています。
新型コロナが流行する以前は、対象となる国は、英国、カナダ、ドイツ、フランスのみ、対象品目は新型インフルエンザのワクチンのみでした。しかし、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令の一部を改正する政令」(令和2年5月2日政令第162号)により、特例承認の要件において認められる同等水準国として、アメリカ合衆国が追加され、特例承認の対象となる医薬品として、新型コロナウイルス感染症に係る医薬品が追加されました。(関連通知)
(*3)第14条第2項、第6項、第7項及び第9項には、通常の医薬品の承認申請・審査・承認時に必要な条件が規定されています。特例承認は、それらの条件が承認時点で全て揃っていなくても、特例で承認を与えるというものです。
通常の承認と特例承認の具体的な相違点は、以下の通りです。(引用:厚生労働省 令和3年4月16日第4回医薬品開発協議会 参考資料)
・品質確保、信頼性にかかる調査、製造販売業、製造業の許可の免除
・臨床試験成績、添付⽂書記載事項以外の申請資料は提出が猶予
・ラベルの記載事項に関し、添付する文書等に邦文記載があれば英語記載のままでよい
・厚労大臣は、適用条件を満たさなくなった場合には、承認を取消すことができる
特例承認は、2009年に新型インフルエンザが流行した際に初めて適用されました。このときは2種類のワクチンが、申請からおよそ3か月で承認されました。
また、2020年5月7日に特例承認された、新型コロナウイルスによる感染症を効能・効果とした、レムデシビル「ベルクリー点滴静注液・同点滴静注用」については、投与対象を重症患者に限定するという条件などが付され、申請からわずか3日で特例承認されています。
新型コロナウイルスのワクチンに関しても、審査を経て、それぞれ承認条件が付され(※3)特例承認されたということになります。
このように、日本に焦点を当てると、新型コロナワクチンの審査・承認はかなり迅速に行われているように思われますが、世界に焦点を当てると、また少し見え方が変わってきます。
次回は、今回の記事の続編として、各国の新型コロナワクチンの審査・承認状況を、日本と比較しつつ、見ていきます。
※1, ※2:PMDAの令和元事業年度業務実績(概要)のp.1「1.審査期間の目標の達成」に、新医薬品の総審査期間の目標と実績が記載されています。
総審査期間の目標と実績(実績は令和元年度)は、以下であることがわかります。
・新医薬品(通常品目):目標12ヶ月、実績11.8ヶ月
・新医薬品(優先品目):目標9ヶ月、実績8.7ヶ月
・新医薬品(先駆け品目):目標6ヶ月、実績 品目①6.0ヶ月/品目②6.0ヶ月/品目③5.4ヶ月/品目④4.5ヶ月
※3:各ワクチンの審査報告書に、承認条件が記載されています。
0コメント