CSV:#11 CSV活動で作る文書⑦ TM
こんにちは、木村です。
CSV活動で作る文書シリーズは、今回はトレーサビリティマトリクス(TM; Traceability Matrix)について説明します。
これまで本ブログでは要求仕様書(URS)、機能仕様書(FS)、設計仕様書(DS)、据付時適格性評価(IQ)、運転時適格性評価(OQ)、性能適格性評価(PQ)の各活動で作成する文書を説明してきました。1つずつ説明しましたので、一連の活動でありながら各文書間の繋がりは分かり難い所があったかもしれません。今回の記事で、これらを繋げるのがトレーサビリティなのだと理解していただけると思います。
1. トレーサビリティとは
トレーサビリティとは、システム開発・検証段階の成果物の関係性を明らかにして、各要求がどのように設計され、検証されたかをトレースできることです。
GAMP5でもトレーサビリティとして示されています。
・要件が満たされ、それぞれの要件を適切な構成設定や設計要素までトレースできる
・要件が検証され、それぞれの要件が満たされていることを実証するテストや検証活動までトレースできる
トレーサビリティを実現する方法の1つとしてトレーサビリティマトリクス(TM)の作成があります。
2. トレーサビリティマトリクス(TM)
いつ作るのか?
トレーサビリティマトリクス(TM)は、コンピュータ化システムのライフサイクルの開発段階から作成し始めます。要求仕様書(URS)と同じタイミングで作成し、順次、機能仕様書(FS)、設計仕様書(DS)、据付時適格性評価(IQ)、運転時適格性評価(OQ)、性能適格性評価(PQ)の各段階で該当する部分の記載を追加していきます。
誰が作るのか?
規制対象組織(製薬会社等)が主体となって作成します。記載内容が機能仕様書(FS)や設計仕様書(DS)などにも及びますので、供給者(ベンダー等)の協力を得ながら作成します。
どのような目的で作るのか?
要求仕様書(URS)の要件が、機能仕様書(FS)、設計仕様書(DS)、据付時適格性評価(IQ)、運転時適格性評価(OQ)、性能適格性評価(PQ)でどのように実現されたか、どのように検証されたかを保証するために作成します。
また、設計時適格性評価(*1)のエビデンスとしても作成されます。
どのような事を記載するのか?
要求仕様書(URS)の要件を主軸として、それに対応する機能仕様書(FS)、設計仕様書(DS)、据付時適格性評価(IQ)、運転時適格性評価(OQ)、性能適格性評価(PQ)の各項目を並べていきます。
以下にトレーサビリティマトリクスの一例を示します。
詳細は「どのように作るのか?」で説明します。
(筆者作成)
どのように作るのか?
- 表計算ソフト(Excel)など、表形式を表示しやすいツールを用いると作りやすいです。
- 表の縦軸(最左列)に要求仕様書(URS)のID、要求事項を記載します。IDだけでも良いですが、要求事項を記載しておくと、どのような要求か分かり易いです。
- 表の横軸に機能仕様書(FS)、設計仕様書(DS)、据付時適格性評価(IQ)、運転時適格性評価(OQ)、性能適格性評価(PQ)の列を用意します。
- 縦軸と横軸が交差した箇所に、要求仕様書(URS)に該当する機能仕様書(FS)、設計仕様書(DS)、据付時適格性評価(IQ)、運転時適格性評価(OQ)、性能適格性評価(PQ)の各IDを記入します。
- 簡易的なシステムの場合は、要求仕様書(URS)/機能仕様書(FS)/設計仕様書(DS) のIDを共通化することにより、効率的にトレーサビリティマトリクス(TM)を作成することができます。
- 仕様書や適格性評価ではトレースできないユーザ要求(非機能要件、開発要件、保守要件等)がある場合には、要求仕様書(URS)を作成する時にあらかじめその旨をトレーサビリティマトリクス(TM)に記載し、代替となる文書類(業務手順書、操作マニュアル、見積書、保守契約書等)を特定します。
トレーサビリティマトリクス(TM)は各活動の成果物を横断して一覧化できます。各要求/設計/検証(テストケース)まで落として対照しますので、この作成作業には時間がかかります。しかし、この1表があると要求から実現・検証までの流れが一目で分かるようになります。また、もし何かしらの改修や問題が生じた際の影響範囲を把握しやすくなるという利点があります。
次回はこれまでの「CSV活動で作る文書」シリーズのまとめをする予定です。
*1 設計時適格性評価:要求仕様書に記載された要求事項が、機能仕様書、設計仕様書等に正しく反映されていることを確認するための検証活動。
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