医薬品の承認審査制度:#6 緊急承認制度
こんにちは、多田です。
今回は、日本の新規承認制度である「緊急承認制度」について取り上げます。
「緊急承認制度」は2022年5月13日に成立、5月20日に公布された改正薬機法に盛り込まれた新制度です。当該改正薬機法の一部(*1)である緊急承認制度は、公布と同日に施行されました。また、5月20日付で、当局からは以下の通知が発出されています。
- 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律等の公布について」(薬生発0520第2号)
- 「緊急承認制度における承認審査の考え方について」(薬生薬審発0520第1号)
これまでの記事で取り上げてきたように、日本では特例承認(医薬品の承認審査制度#1参照)により、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の承認を行ってきました。通常のプロセスと比較すれば素早く審査承認が行われたものの、特例承認は特定の外国で流通している医薬品を対象とした制度であること、また、日本人を対象とした治験が必須となることなどから、欧米と比較すると数か月承認が遅れました(医薬品の承認審査制度#2参照)。こうした課題を踏まえ、制度の見直しが進み、創設されたのが緊急承認制度です。
緊急承認制度は、USの緊急使用許可:EUA(医薬品の承認審査制度#3参照)を参考に作られています。感染症拡大などの緊急時を想定し、安全性については通常の薬事承認と同水準での「確認」を行うこと前提とし、有効性については「確認」ではなく「推定」での承認を可能としています(*2)。承認時には有効性の確認等の承認条件が付され、期限は最長2年(1年単位で延長可)です。その期限内に、改めて通常の製造販売承認申請を行う必要があります。また、期限内に有効性が確認できない場合など、承認が取り消されることもあります。
塩野義製薬の新型コロナウイルスの経口治療薬「ゾコーバ錠125mg」について、緊急承認制度を前提として(*3)2022年6月22日に薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会にて審議が行われ、初の緊急承認制度の適用対象となるかが注目されておりましたが、報道にもあるように、結論は持ち越されたようです(*4)。(参考:令和4年6月22日医薬品第二部会におけるゾコーバ錠の審議の概要について)
これまで全6回に渡り、日米欧の新型コロナ関連の承認審査制度をみてきました。緊急時の日米欧における医薬品の承認審査制度の概要や制度の違いをつかんでいただけたでしょうか。
本タグでは、今後も日本や欧米を中心とした、各国の承認審査制度について、取り上げていく予定です。
(*1) 2022年5月20日に公布された改正薬機法は、緊急承認制度の創設と電子処方箋の仕組みの創設を内容としています。
(*2)「緊急承認制度における承認審査の考え方について」の中で、ワクチンの有効性の推定に関して、日本人を対象とした治験が必須ではない場合があることが明記されています。
緊急承認制度においてワクチンの有効性を推定するに際しては、海外において実施された検証的な大規模臨床試験で顕著な成績が得られている場合には、日本国内における日本人対象の臨床試験成績は必要ではない場合がある。
(*3) 塩野義製薬は2022年2月に「条件付き早期承認制度」の適用を希望する製造販売承認申請を行っていましたが(参考:塩野義製薬プレスリリース)、緊急承認制度が創設されたことを受け、2022年5月末に緊急承認制度の適用を求める申請に切り替えていました。
(*4) 部会での審議では、有効性の評価に関して、特に大きな論点となったようです。第2b相試験のデータで、抗ウイルス効果については、プラセボと比較して有意差のある効果が認められましたが、症状改善傾向については統計学的な有意差が認められませんでした。こうした結果等から、有効性が「推定」できるだけの十分なデータが揃っているとは言いづらい状況であり、部会の審議でも結論を出すには至らなかったものと思われます。今後、薬事分科会(部会と合同開催)にて、公開審議が行われます。
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